ミュージカル『ラ・マンチャの男』日本初演50周年記念公演・帝国劇場 [オペラとミュージカル]
六代目市川染五郎と共に歩んだミュージカル人生 [オペラとミュージカル]
ミュージカル『The King and I 王様と私』東急シアターオーブ [オペラとミュージカル]
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』日本初演50周年記念公演 [オペラとミュージカル]
入場券の半券で歴史と立ち会う [オペラとミュージカル]
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』50周年の歴史 [オペラとミュージカル]
わが青春のテノール『ニコライ・ゲッダ』 [オペラとミュージカル]
新聞の片隅に小さな訃報が載りました。(2月12日 朝日新聞)
たった8行の小さな小さな記事ですが、私にとっては重大事件です。ニコライ・ゲッダ(Nicolai Gedda)は私の青春時代を鮮やかに彩ってくれたテノールです。
生まれて初めて買ったオペラのレコードはプッチーニの『ラ・ボエーム』で、15歳高校一年生の時でした。ミルレラ・フレーニのミミにロドルフォがニコライ・ゲッダです。
アナログLPレコード2枚組で豪華なBOXに入って、50年前で4000円しました。この演奏は大好きで今ではCDに入れて聴いております。
解説書に録音風景とゲッダの写真がありますので紹介します。
当時私は同い年のウィーンの女の子と文通をしており、16歳の誕生日にモーツアルトの『魔笛』のレコードをプレゼントされました。
指揮はオットー・クレンペラーで、ゲッダがタミーノを歌っております。
昔は軽量の封書でも、ウィーンまで航空便で1週間くらいかかりました。このレコードは南回りの船便で一か月を超える長旅をしてきました。荷物室など冷房が効いているわけではありませんので、我が家に到着した時レコードはクナクナに反り返っており、聴ける状態ではありませんでした。大量の新聞紙で挟み、大きな本で重しをして一か月、ようやくレコード針が飛ばないくらい平たくなりました。半世紀が経っても忘れられない思い出です。当然ですが今はCDに入れてあります。
ニコライ・ゲッダは素直で優しい歌声です。ルチアーノ・パヴァロッティやジュゼッペ・ディ・ステファーノなど強烈なインパクトがあるわけではありません。それが故にいろいろな役柄を歌いこなせるのだと思います。人並み外れた声域も見事で、安心して聴いていられます。
我が家のオペラ・ライブラリーも徐々に増えてゲッダのアルバムとしては、
『椿姫』のアルフレードに『カルメン』のドン・ホセ、
マリア・カラスとの共演は『蝶々夫人』のピンカートンもあります。指揮はカラヤンです。
録音はすべて50年代から60年代で、私が生まれて間もなくから小学生の時代です。オペラの入門編と言えるべき名作ばかりですが、今でも聴いているお気に入りです。クレンペラーやカラヤン、カラスにパヴァロッティ、ディ・ステファーノ、みなさんすでに次の世界へと引っ越しをされており、ゲッダも逝ってしまいました。寂しい限りですが“録音”が残っております。我が家のオペラ・ハウス(?)でこれからも楽しむつもりです。
ひとつ大変なことに気が付きました、現在我が家にいるマリオ・カヴァラドッシとカラフ王子がゲッダではありません。無性にゲッダの『トスカ』と『トゥーランドット』が聴きたくなりました。早速買いに行きましょう…!
子供の時にオペラの楽しさを教えてくれて、その後の人生を豊かにしてくれたニコライ・ゲッダに感謝しております。ご冥福を祈るばかりです…
東宝ミュージカル 2017 [オペラとミュージカル]
写真はミュージカル『ミス・サイゴン』を上演中の帝国劇場前です。ミュージカルの舞台は中学生から、オペラの舞台は高校生になってから、それぞれ親しみいまだに楽しんでおります。劇団四季のミュージカルや海外からの訪日公演などはない時代で、東宝が上演する翻訳舞台だけがブロードウェイ・ミュージカルとの接点でした。
東宝が制作した日本初のブロードウェイ・ミュージカルは1963年の『マイ・フェア・レディ』で、キャストを替えていまだに上演される大ヒットミュージカルですが、残念ながら当時私は幼くてその舞台は観ておりません。その後、東宝は続々とブロードウェイ・ミュージカルを翻訳上演します。中学生になった私は、『サウンド・オブ・ミュージック』『王様と私』『心を繋ぐ6ペンス』『屋根の上のヴァイオリン弾き』や『ラ・マンチャの男』などなど日本初演の舞台を味わい、ミュージカルの醍醐味に浸る事となります。
多くはお堀端の帝国劇場での上演で、新しく建て替えられて今年で50年になります。戦前に建てられた旧帝劇は全く知りません。華々しく開場した今の帝劇で、杮落としの『東宝歌舞伎』や『風と共に去りぬ』の舞台も記憶に残っております。現在上演中のミュージカル『ミス・サイゴン』も50周年記念としての公演です。日本のミュージカル界に大きな功績を遺す“東宝”が、来年2017年に上演するミュージカルのラインナップが発表されました。一部を紹介します。
まずは4月の日生劇場は市村正親・主演で『紳士のための愛と殺人の手引き』です。
5月から7月は帝劇で『レ・ミゼラブル』日本初演30周年記念公演です。
続く7月から8月も帝劇でキャロル・キングの半生を描く『Beautiful』です。
12月は日本初演50周年記念として『屋根の上のヴァイオリン弾き』が日生劇場で再演されます。
このチラシを手にした時、真っ先に“50周年”の文字が目に飛び込みました。もう50年か…、しみじみと感じてしまいました。昭和42年(1967年)9月日本初演のステージに高校2年生で出会い、その感動がまざまざと思い出されました。
“東宝設立35周年記念公演”と銘打った公演でした。チケットの半券やパンフレットが手元に残っております。その後も、森繁久彌のテヴィェを何回観たことか…
来年50周年として再びこの名作に出会えることに心躍ります。あと1年後、来年のことを言うと鬼が笑うかも知れませんが楽しみです。それまでまずは健康第一かな?…
渡辺謙 ミュージカル『王様と私』CD [オペラとミュージカル]
渡辺謙さんが出演したブロードウエイ・ミュージカル『王様と私』のCDを購入しました。初のミュージカルで、しかもトニー賞主演男優賞にノミネートされる、など昨年春に多いに話題になったステージのアルバムです。
ミュージカル『王様と私』は、私が生まれた1951年にブロードウエイで初演されて、55年に映画化、日本での上演は65年、私が14歳の中学生の時でした。私にステージ・ミュージカルの楽しさ、面白さを存分に知らしめた思い出の作品です。
アンナ・レオノウエンズ役に越路吹雪、王様役に市川染五郎(現・幸四郎) が演じました。
当時、観劇後に購入したのが64年夏にニューヨーク・リンカーン・センターで上演されたキャストによるLPレコード盤で、日本では65年に発売されました。
期せずして、それから半世紀・50年の年月が経って同じリンカーン・センターで上演されたキャスト盤CDを手に入れたわけです。 ジャケットのトップに“THE 2015 BROADWAY CAST RECORDING”とあります。この最新録音盤を聴くとまず楽曲のアレンジがそれまでのものと全く違っている事に気がつきます。従来の作品をそのまま再現するのではなくて、時代に合せて新しい作品に仕上げている事が感じられます。さらに、渡辺謙さんをはじめ、東洋人役はアジア人の役者さんが実際に演じている事が聴いてとれます。実際に現地ブロードウエイでは、主役、脇役に限らず役柄に合せて各国の役者さんが活躍する事が主流になっているようです。日本人の出演がこれからはさらに期待できそうです。
キャストの一部を紹介します。隣国からの使者ルン・ター役にコンラッド・リタモラ(日本初演・立川澄人) に、その恋人タプティム役にアシュレイ・パーク(同・淀 かほる)。アシュレイ・パークはトニー賞でミュージカル助演女優賞を受賞。
王様の第一夫人・ティアン王妃役にラシー・アン・マイルズ(同・南 美江)、
チュラロンコーン王子役にジョン・ヴィクター・コルプス(同・岡崎友紀)、写真手前、
王子、王女の子どもたちまで東洋系の子役さんが選ばれております。
この2015年版は、トニー賞ミュージカル・リバイバル作品賞、主役のアンナ・リオノウエンズ役のケリー・オハラがミュージカル主演女優賞、さらにミュージカル衣装デザイン賞を受賞しております。実際のステージが、50年前の日本初演版とどのように違うのかぜひ拝見したいものです。
舞台の素晴らしさは、生の人間が目の前で演じてくれる事。 一生懸命に演じてくれるほど、見ている私はウルウルしてしまいます。私をウルウルにさせるステージ、早くなにか観たいなぁ~!‥
ミュージカル『ラ・マンチャの男』帝国劇場 千秋楽を観る [オペラとミュージカル]
10月27日、日比谷の帝国劇場でミュージカル『ラ・マンチャの男』を観てきました。
千秋楽でもあり、満員の客席は期待と興奮で賑わっている事が感じられます。普段、平日の昼の部ですと、ほとんどが女性客で埋め尽くされておりますが、この日は私と同年齢かそれ以上の年齢と思われる男性客がかなり多く見受けられて、多少めずらしさと異様ささえ感じてしまう程でした。私と同様に、幸四郎のラ・マンチャに魅せられたファンの方々だと思われます。
日本初演は1969年4月、私が18歳の時で市川染五郎の時代です。翌年ブロードウエイの舞台に出演、さらに松本幸四郎を襲名して現在に至り、46年の年月をひとりの役者が主役を演じ続けております。ブロードウエイのステージを除いて、何回この舞台を観賞したか、数え切れません。地下牢という密室で様々なシーンが展開されて、劇場の何もない空間がイマジネーションの世界へと導かれます。“『ラ・マンチャの男』には、すべて(のおもしろさ)がある!”との英語評に納得です。劇場内と外壁に大々的に宣伝されておりました。
カーテンコールは当然のようにお客様のオール・スタンディングで、現在の帝国劇場が来年で50周年を迎え、ラ・マンチャも劇場と同じような歴史を持っていることが幸四郎のスピーチで報告されました。これからも帝劇と共にラ・マンチャも歩み続けたいとの希望が述べられると、客席からは熱狂的な拍手が贈られました。出演者全員で劇中歌『見果てぬ夢』が合唱されて、極め付きは幸四郎による英語バージョンのソロです。歌舞伎公演ではないために、屋号ではなくて“ラ・マンチャ!”の掛け声が客席から飛び交う、一種独特な熱狂を存分に味わう事ができました。
1969年の初演時に撮られたスチール写真です。撮影は篠山紀信氏で、46年を経て再び脚光を浴びている一枚です。
私の座席のまん前に高校2,3年生と思われる女子生徒がひとりで観劇しておりました。学校の制服姿でカバンを手にしておりましたので、午前中に授業が終わり観劇にきたのかも知れません。演劇部に所属か、大のミュージカル・ファンなのでしょうか、鮮やかな朱色のオペラ・グラスで熱心に観ておりました。ちょうど46年前に私が初めて観た年齢に似ております。彼女がどのような感動を得たのかわかりませんが、彼女の演劇史に大きなポイントを残したことに間違いはないでしょう。
私はこの年齢になり、劇中のアロンソ・キハーノ=ドン・キホーテの行動が、気違いではなくて現代の認知症ではないかと初めて気がつきました。18歳当時では考えられなかったことです。亡くなった母も、義母も現在認知症を患っております。年明け早々65歳になる私もドン・キホーテに近づいているのでしょうか。怖いようでもあり、楽しいようでもあり、複雑な心境です。
初演から比べると歌唱法も変わり円熟した幸四郎のラ・マンチャ、次回はいつ観られるのでしょうか。今から楽しみです…